2020年12月28日

ピノキオ幼稚園の皆さん

ピノキオ幼稚園の皆さん

 

 禍々しいコロナウィルスによる生命のロスと社会的混乱を伴った2020年が更けていきます。少しずつワクチンの開発が進んでいることを朗報と聞きましょう。ともかく新しい年が、何とか回復への変化をもたらすよう祈ります。この厄災を私たちの文明のもたらすカタストロフィーの予兆として、文明の現在のありようについてよく反省する必要があるでしょう。自分や周りの人々だけでなく、世界の他の場所に住む人々、地球やその一部である動植物、すべての有機的なネットワークを傷めない生活をどうしたら構築できるか、考え工夫し、実際に行動してゆかねばなりません。多くの人々が快適さだけに依拠して、この世界の脆弱性について無視し続けると、世界は一気に崩壊の淵に向かいます。

 

 ワールドウオッチ研究所の前所長レスター・ブラウン氏が、「自動車に乗ることと牛を食べることが、人間の未来にとって非常によくない」と言っていますが、自動車が1台増えるとサッカー場1枚くらいの緑が失われるのだそうです。自動車はそんなにたくさんいるのか、もう少し効率の良いものはできないのか、FAO(国際食糧農業機構)も最近、代替タンパク質源として昆虫食の必要性を世界に訴えました。やりようによっては買い物のポリ袋もなくても済む、コンビニなども真夜中にあける必要があるのか、コンビニは、そんなにたくさんいるのか、正月まで開けておかなければならないのか。テレビやスマホ、ゲーム機なども生活の中にあふれています。あふれるようにして捨てられるこれらのものは、海や川や湖を汚染します。殺虫剤、除草剤、洗剤、プラスチックから溶け出す様々な化学物質が小動物に危害を与えています。もう少し、ささやかで、安定した、再生可能な生活に作り替えるためにどうしたらいいのか、みんなで知恵を出して新しい生活習慣を構築して行きましょう。

 

 地球は今、悲鳴を上げています。これまで地球は5回の大絶滅を経験し、今6番目の大絶滅が始まっていると考える学者も多い。これまでの大絶滅は、巨大隕石の衝突、マントル・プルーン(地下の溶岩が大量に噴出)のほかに、数度の地球の全球凍結によって起こされたらしい。地球は太陽の放射エネルギーを受けて、一部を反射しますが、これを惑星アルベドとよび、寒冷化すると地球は白くなってアルベドを大きくする。そうすれば寒冷化は急促進するし、温暖化すると雪や氷河が解け、アルベドは急速に小さくなっていきます。今これが起きていて、シベリヤの永久凍土の下のメタンが溶け出し、メタンは二酸化炭素よりもっと強い温室効果ガスですから、気温は急速に上がってきています。氷に閉じ込められてきた病原菌が顔を出すともいわれています。極地の氷河が解けると海の面積が広がり、ここに温暖が重なると巨大台風、ハリケーンなどが形成されます。中国南部では、大洪水が起こりかかっていて、三峡ダムが決壊するかもしれないのです。オーストラリア、カリフォルニア、オレゴン、ワシントンと連続して山林火災があり、オーストラリアではコアラが多数死んでしまいました。バッタも猛威を振るっています。インドネシアの泥炭火災も大きな煙を出しています。飛行機で上空を飛んでみれば、ブラジルではいたるところで火が燃えているのが一目瞭然です。導火線はさまざまにつながっていて、下手をすると、爆発が不可避の線を超えてしまいます。森を伐ると野生動物との結界がこわれ、新しい病原性あるいはそれを媒介する要素が、漏れ出してきます。パンドラの箱です。気温だけでなく、海や川や湖はマイクロプラスチックスが極地まで汚染しています。これらの微粒子は、癌や奇形を引き起こすダイオキシンやPCBを吸着します。数日前には温暖化のせいで世界中のイルカの中に皮膚病が蔓延して、すごい数のイルカが死につつあることが報道されました。それはやがて、制御できない影響を人間にも与え始めるでしょう。様々なところで、人の生命線が崩壊しつつあります。

 

 一方で、社会もIT化で、年寄りはなかなかついていけない世の中になり、子供はスマホの中毒で、集中力に問題が出てきているようです。私の子供のころには、魚屋や、炭屋や、鋳掛屋や、豆腐屋や、陶器を作る釜や、貸本屋や、印刷所などがあって、そこで子供たちは自由に出入りし、活字組みや、轆轤が回る様子、魚のさばき、酸素―アセチレンガスの火による溶接などを、不思議の目でもって観察することができました。今はすべて、パックされたものしか見ることができません。簡便と快適の呪文と、不思議と空想を交換してしまいました。どうしたら、この失われたものを買い戻せるでしょう。私たちと私たちの社会は、意図せずに、大きく変わってしまいました。どんな道徳、どんな技術や知識を養い、何が最も必要なのか、悪い習慣や、欲望を峻別し、それと惜別すべきか、もう一度この機会によく考えてみる必要があると思います。嵐は、いつも弱い人々(経済的、社会的弱者、子供、老人、婦人、障碍者、病人、外国籍の人など)を強襲します。彼らの立場に立って、新しい共感と共生のシステムをどう構築するか、真剣に考える時が来ています。

 

 この状況の中で、軍事費だけが伸びていきます。今は、長篠の戦のような時代ではありません。兵器はものすごい威力になっています。人間を一瞬でミンチにしてしまいます。人の心も体も破壊し、多くの孤児や難民を生み出します。巨額のお金をむだにする余裕は今、人類に残されていません。そのお金を学校に回し、病院や介護施設に回し、植林に回し、井戸掘りに回し(中村哲さんのように)、学生の授業料をただにし、暴走する技術を管理するシステムの構築に回したら、かなり多くのことができるに違いないでしょう。そんな高価な兵器を全く持たない国々も沢山あり、それらの国々は、むしろ核の廃絶に向かって声を上げています。機関銃や地雷や、どちらかといえば安価なものでも、社会にそれらが入ってくると、制御できない争いで社会も家族も引き裂いてしまいます。どちらが賢いのでしょう。他国が持つからとこちらが言えば、向こうも同じことを言うでしょう。これは軍拡競争の論理で、最終的には終末戦争に行ってしまうのです。チェホフの言うように舞台の初めに現れる拳銃は発砲されないでは終わらない。責任を人のせいにしてもいつまでたっても問題は解決されないでしょう。苦しんだ人は、共感することができる。新しい世界を作るために、今、許しと共感は、最も大切な要素です。何十万もの人々がコロナで亡くなり、その上にさらにその何倍もの死者を積み上げようとするのはおろかです。地球と恵まれない人々に救済の手を伸ばすこと。世界の傷を治癒し、皆が助け合う新しい秩序を築き上げられるかどうか、これに私たちの未来がかかっています。考えるだけではなく、自分でできることを少しでも実行に移すことが大事です。

 

 3~5歳時は、子供たちが、自我を形成し、社会的な座標を内に構築し、自らを社会や自然に適応を遂げる、その基礎を作る大事な時期です。ジクムント・フロイトの娘アナはお父さんの精神分析法を子供の発達心理学の方に発展させた人ですが(「自我」「超自我」「イド」)、はじめ子供は自分と母それから父と一体化を試みるが、そこから次第に自己を確立し、その一体的なシステムから独立を試みる。同化と相克の過程が、正しく行われないと親子関係はうまく形成されないと考えました。子供の存在を受け入れ、子供の自立を励ましていかなければいけない。親は、辛抱強く、なぜ自分はそのように考えるのか説明してやる責任もあります。子供がいけないことをした時には辛抱強く、きちんと叱ってやることも重要です。嘘や体罰は禁物です。団欒の時間も大切です。こういう立場で、ゆっくり親子関係の再検討をはかることができれば、コロナの恵みということもできると思います。コロナで少し、仕事時間に余裕ができた方は、子供と一緒にいる時間を増やしてください。この投資は将来きっと報われるでしょう。

 

 嵐は一層強くなってくるようですが、十分気を付けて、新しい年が、皆さんの健康と喜びに満ちる年になりますように、自然の怒りが収まりますように、戦さや、疾病、貧困に苦しむ人々の傷が癒え、皆が支えあい手を携えて、希望が紡ぎだされていく年になるよう祈ります。     

 

 

2020年12月28日    竹田 真木生