2022年8月2日
それでも夏休み
竹田真木生
今年こそはと意気込んでいた宿泊保育が、またまた中止になってしまいました。なんということでしょう。新型コロナは第7波に入り、ヨーロッパでは戦争が、子供たちの命も生活も無茶苦茶にしています。そのうえ、異常気象で森が燃えたり、洪水がおこったり・・・。日本でも熱中症や、物価上昇と、いったいどうしろっていうの、と泣きべそかきそうになってしまいますね。
お父さん、お母さんも大変なので、みんなよい子たちも無理を言わないように協力して、そのうえで思いっきり遊ぶ工夫をしてください。手をよく洗い、早寝早起き、たくさん食べて、外に行くときは帽子をかぶって熱中症にならないように気を付けましょう。水筒をもって、必要ならば日傘をさしましょう。テレビやゲームで遅く寝たり、生活を不規則にするのを避けましょう。ピノキオ幼稚園にもたくさん本があるし、近くの図書館で、世界中の童話や、図鑑なども探せます。最近立派な図鑑がたくさん出されています。本屋さんに聞くと、大人の本はあまり売れないけれど、図鑑の売れ行きはすごく好調でたくさん売れると言っていました。時々、山や公園、プールや水族館、動物園などにもつれていってもらうとよいと思います。クレヨンや絵の具で絵をかいてみるのもいいでしょう。ムシや植物の絵というのも昔のイギリスでは貴婦人の趣味でした。細密画というのも観察眼を育ててよい趣味だと考えられていました。紳士の間では蝶や甲虫の採集が盛んでした。
昆虫図鑑も優れたものが沢山出ています。捕まえた蝶は表(=上)を内側にして、下から胴体をもってできるだけ羽をつかまず、三角紙という長方形の紙(パラフィン紙がよい)を斜めに折って、重なりからはみ出た部分を反対側に折り込んだ三角の封筒の中に入れておくと保存ができます。胴体を封筒に挟むときに胸を押さえておくと動けなくなって暴れません。時間がある時に、乾燥した蝶(あるいは蛾)を湿った紙の上におくと、柔らかくなってくるから胸に針を通して展翅版という板に半を広げて整形し、上からパラフィン紙のテープで押さえ、針で固定すると固まってきれいな標本になります。いつ、どこで、だれがとったかなどの情報を入れたデータをつけて標本箱に入れて保存します。乾いた標本を食べる虫がいるから、ナフタリンなどを入れておきます。近くには近くの虫がいるからどこでも昆虫採集はできるし、どこでも植物は生えています。植物は新聞紙の上に丁寧に伸ばし、そのまた新聞紙をおき、重ねて上から重しを載せると、乾いた植物標本ができます。湿ったままおいておくと茶色になってしまいますが、水分をとってやると緑のままの状態で保存できます。石ころや化石だっていろいろなものがあるよ。いろいろな鉱物の種類や混じり方によってみな名前が違う。地球のどの辺で出来たかで違う性質の石ができる。花崗岩とか安山岩とか蛇紋岩とか、石灰岩とか、よけいなセッカイガンとか??
星を見るのも面白いですね。夏は銀河が雄大に見えます。銀河は天の川とも呼ばれています。ミルキーウェイとは乳の川という意味です。ものすごい数の星の集まりで、夏の星座はわし座、こと座、白鳥座、さそり座、ヘルクレス座なんかがあり、特によく光る1等星が3つで三角形をつくり、これを夏の大三角と呼びます。白鳥のデネブ、こと座のベガ、わし座のアルタイルもあります。デネブは七夕伝説の織姫、アルタイルは牽牛(牛使い)のことです。
南の空にはさそり座が伸びていて、この1等星はアンタレスという赤い星があります。太陽は中年の黄色い星で大きさも中くらいです。だんだん年を取っていくと大きくなって赤い星になって赤色巨星という巨大な星になりますが、あまり大きくなりすぎると重さで中がつぶれて核融合爆発が起こります。それで芯だけになって小さくなったのを白色矮星(はくしょくわいせい)と呼びます。
星は星座を構成し、それぞれ色とサイズがあって区別されます。小さいかけらは引っ張り合ってだんだん大きくなってゆくし、重くなりすぎたら爆発し、その全体を構成する宇宙空間はどんどん広がっています。どうしてかわかりますか?遠くの星ほど赤いというのがその理由です。今途中で、爆発しているなら時間をさかのぼればどんどんあつまってくるね?そうだ、初めはあって、ドカンと大爆発が起こったのだと考えられているのです。これをビッグバンと呼びます。
ではその前は何があったのか?まだこの答えはだれも知らないのです。いろいろ分からないことはまだいっぱいあります。星の方を向いて考えると途方もなく大きなものになりますが、それを作っているのは何かと考えると、今度は小さなちいさな粒になっていって、最終的にはミューオンとかグルーミオンとか呼ばれる小さいものになっていきます。重力とは何かというのもようやく最近になって姿が見えてきました。ヒッグス粒子とかグラビトンという名で呼ばれているものがその実体です。ものすごいスピードのトンネルの中を、電力をかけて物質を回すとその中で物質を構成する素粒子が引っ付いていられなくなってバラバラになります。この振り回すトンネルを加速器と呼びます。そういうものすごい粒子のあるひそかなまとまりが、人であったり、蝶であったりするのは面白いことですね。粒である自分が別の粒の塊である蝶がひらひら飛び漂っていくのを眺めていると妙に心が落ち着きますね。これが、僕であり、君であり、地球であり星であるのです。お母さんであり、お父さんであり、それはそのまえのおじいさんやお婆さん、ネアンデルタール人であったりします。時間がたつと太陽が地球の軌道くらいに膨らんでくるし、銀河系もアンドロメダ星雲にドッキングするというのです。その頃の僕の子孫はどうなっているのだ?怖いですね。
お父さん、お母さんたちへ: 子供たちに思いっきり夏休みを堪能させてあげたいのに、疾病や、戦争や、温暖化や、不景気や、頭の痛いことだらけですが、子供たちにはできるだけ時間を割いてかわいがってあげてください。子供たちは親からかわいがってもらえたこと、というこの時期の経験が非常に大切な足場になっていきます。最近、愛情の内分泌学的な研究が進んできて、愛情がオキシトシンというペプチド(アミノ酸がいくつかつながったもの)で制御され、それが経験として脳にインプットされることで世代間伝達されるということがわかってきました。子供たちを抱きしめることがオキシトシンを放出させ、母親の愛情を形成し、子供たちを安心させ、それが次世代の愛情形成にもつながっていく。
オキシトシンが放出されると子供を胸で抱く、子供とふれる部分の体温が上昇し子供を暖かく包むこと、オキシトシンは男性にも母性愛を育てること等々の驚くべき知見が明らかになってきました。愛情というのは心理学の扱う対象かと思っていたら実は生物学の領域になってきたのです。なんと、昆虫にも同じような機能のペプチドがあることがわかってきました。これはイノトシンという名前で呼ばれています。私は、今絶滅危惧種のタガメという昆虫の保護を手掛けています。彼らが生存できなくなったのは水系に溶けだしてきている内分泌かく乱因子がかかわっていると思いますが、タガメという虫はつがいを形成し、メスの産んだ卵塊を雄が世話するという不思議な性質をしめして愛情が可視化されているので、愛情の生物学をやるにはぴったりです。
今、タガメのゲノムの解読を進めています。お金がないのでなかなか進みませんが、DNAの配列は読めました。これを用いて、この仮説を証明する仕事に入ります。両親がしっかり愛情を注いであげるというのが最重要な課題です。それから、この時期の子供の絶対やらなければならない課題は言語の習得です。言語を通じて子供たちは世界を認識する仕方を学びます。言葉の本当の意味をしっかり子供たち自身が考え、それによって自分の考えを表現する仕方を学びます。
私はドクターコースの時からアメリカの大学で勉強しました。学位をとってから、次はポスドクというインターンのような過程をへて教員などのポストを得ていくのですが、初めてのポスドクはバイデン大統領がでているデラウェア州の大学で、一般家庭の家に下宿しました。そこの大家の奥さんが障碍のある子供たちの学校で教えていましたが、時々その家で子供たちがあつまってPublic speakingの練習をやっているのを見ました。アメリカの家庭では早い段階で、みんなの前で話すことが、学びの重要な要素になっているのを見て感心しました。ボーイスカウトの前の段階はカブスカウトというのに属して訓練を受けますが、私もそこに虫の話を紹介に行ったこともあります。ともかく、アメリカの教育は日本のそれと比べかなり実際的な訓練が多いようです。大学でも、昆虫学のあらゆる側面について勉強します。いろいろな標本を見て、当てる。採集して標本を提出する等の宿題が出されます。
日本の学生は、しらみの取り方、ねじればねの取り方などを知っている人は少ないと思いますが、あちらでは実際捕まえてきてそれを同定して標本を提出しなければなりません。車の修理とかも自分でするのですものね。それを教えるのが父親の権威になっています。言葉です。言葉の意味するものを手で調べそれがどういう実体かよく理解すること。想像力を掻き立て、言葉と言葉の紡ぐ世界を理解し創造する力をつける訓練をしましょう。子供たちに絵本から始まって簡単なファンタジーを聞かせ、読ませ、作らせましょう。
私は子供を4人育てました。この頃のことを思い出すと今でも充実感がよみがえります。毎日子どもたちを風呂に入れ、腹の上に載せてゆすりながらお話を聞かせてやっていました。でたらめのお話が、その頃は次々に生まれてきました。子供たちのノートを作り、毎月誕生日には、お話を書いてあげていました。終わりの方になると回数が増えてくるので大変ではありましたが。日曜日は近所の公園や山に歩きに行ったりしました。六甲山の裾の方に住んでいたので山は手ごろにありました。私の子供のころは小川未明や、宮沢賢治、坪田譲二といった作家の本を与えられて読みました。小川未明の童話は、初山滋などの挿絵が幻想的で素敵でした。よい本を与えてあげましょう。心にいつまでものこる本を。
最後に、私の推薦の本を2冊上げさせてください。1冊目はアーシュラ・レ・グイン作「ゲド戦記」(岩波書店)、2冊目河合雅雄作「ドエクル探検隊」(福音館)です。