2021年9月30日

ドングリから広がる好奇心

今から30年程前、学研の「幼児のかがく」に掲載された文をご紹介します。

 

 

「ドングリから広がる好奇心」

埼玉県ピノキオ幼稚園理事長 服部 充

 

 自然保育の一貫として、毎年秋になるとドングリを植えるというピノキオ幼稚園の園児たち。小さな手で土をかぶせたドングリの実が、春になって小さな小さな芽を出すと、園児たちの好奇心は、その成長に負けないほど大きくふくらみます。

 

 鳥や花や草などの名前を知るということは、興味をもつ第一歩をいえます。そしてそれは、とても楽しいことです。私たちが「ドングリ」と呼ぶ木の実にも、色々な種類があり、それぞれがどんな木の実のことをいうのか、正確に答えられる人は少ないはずです。もし、お母さんたちが子どものころ、ドングリ拾いをしたり、その実をかじったりしたことのある人なら、木の赤ちゃんである「ドングリ」を見て、そのお母さんである木の名前と葉の形を話してあげられるでしょうし、またこのドングリは食べられないよと得意そうに話せるでしょう。

 そんな時のお母さんの顔は、きっと子どものころの可愛い少女の顔になっていることでしょう。そしてそれは幼児たちにとって、限りない信頼感と、友だち意識を感じるかけがえのない親子のふれ合いの時なのです。

 しかし残念なことに、そんな体験はなく少女のころは人形遊び、テレビ、塾通いだったと悔やまれるお母さんがいたら、今からでも遅くありません。子どもさんと一緒にドングリを育ててみませんか。

 

 やってみたいけど「ドングリ」がどこにあるのか知らない、どう育てるのかわからないと尻ごみせずに熱意をもって頑張りましょう。やろうと思うこと、そして頑張ろうと志したことを億劫がらずにやる姿勢は、子どもさん方にとっても大変良い見本となるでしょう。

 図書館へ行けば本や資料がありますし、各都道府県には必ず林業試験場があって、そこの人たちが親切に教えてくれるはずです。

 さて、いよいよドングリを見つけて植えることができたら、芽が出るのが待ち遠しいことでしょうし、秋に植えて、翌年の春から初夏にかけて芽が出て、二つの葉が出てきたら、親子共々大喜びでしょう。きっと抱き合って大さわぎですね。

 

 しかし、これからが大切な教育なのです。もし、秋に植えた「ドングリ」がクヌギであるとしたら、このクヌギの木のことを子どもさんと一緒に調べてみてください。ドングリから育て、芽が出て、双葉がでるという具体的な体験をし、身近に感じている木のことですから興味が湧いてくるはずです。

 そして興味のおもむくまま、徹底的に調べてください。そして大きなクヌギの木の林へ、春、夏、秋、冬と行ってみることもお勧めします。

 クヌギを調べて行くうちに、その木が昔は沢山あったことや、その木で炭を作ること、またその木の樹液を吸いにミヤマクワガタやオオムラサキが飛来すること、そして葉をヤママユガの幼虫が食べて、繊維のダイヤモンドともいわれる高価なマユを作るなど、まだまだ沢山ありますよ。そして秋に落葉することが自然界にとって大変大切だということも気づくでしょう。

 

さあ、お母さん「ドングリ」からはじめてみてください。