2017年9月15日

こおろぎ君とくまさん

「こおろぎ君とくまさん」

 

園長の竹田です。

 

    こおろぎ君とくまさん:この並べ方は奇妙な感じがすると思います。でも、地球というバイオスフェア(物理的な星とそこに住む生物が一緒に地球を作っているのだという概念)においては、そこに生きるものは気候という条件によって生存の様式が決められてしまいます。今日はそのお話。

 

    始業式でも秋が始まるよということを強調しました。蝉に代表される夏が退場し、コオロギの季節が始まります。同じ秋が始まるということでも、コオロギ君と熊さんには季節の変化の意味が違います。季節によって知るのは低温がやってきて、餌が無くなり繁殖や活動に不適な冬がやってくるという同じメッセージです。

 

  でもここで昆虫と哺乳類は、2つの独特の解決を求めました。というより、その解決がかれらに独特の生存手段を与えたのです。2つの解とは?昆虫は小型化に進み、熊に代表される哺乳類は大型化に進みました(ヒトも大型動物)。

 

    大型化は、恒温動物としての在り方を応援します。環境がどんなにかわっても体の中に安定した温度環境を保つことによって代謝は高速で安定的に保たれます。でも、もしそれが壊れたら、それは死を意味します(コウテイペンギンのビデオをご覧になったことがあると思います。なんという必死の人生!)。冬眠する熊は、体温効果はあるのですが時々覚めて高温を回復しまた眠ります。温度が下がりきると死です。気温がそれほど動物の生活に強い影響を与えているのを哺乳類で見つけたのはベルクマンという人で、熊のサイズを最小のマレイ熊から最大のホッキョクグマまで並べるときれいな緯度との相関(比例関係)が現れました。動物学ではこの法則をベルクマン則と言います。表面積/体積比というのは体のサイズと反比例(逆相関)します。体積というのは体重と同じようなものです。大きな動物ほどこの比が小さくなるということを意味します。体からの温度の消失は表面積に比例しますから、大きいホッキョクグマは冷えにくいということになります。

 

    一方昆虫のとった道は、環境に同化してしまおうという道です。ですから、体温は気温とともにいくらでも下がって、場合によっては凍ってしまっても生きる道を捜しました。温度にすべてを託してしまうと、今度は発育が温度環境に依存することになるから、発育の1年を通した全体量は、緯度に依存することになりますが、そうなるとそのサイズはまたも緯度に依存することになります。しかし、今度はクマさんとは逆の形になって、高緯度で体は小さいということになります。それで、この法則を逆ベルクマン則と呼びます。

 

    今コロコロ・リーと鳴いているエンマコオロギ(北海道南部から九州南部まで分布)の体は北のほうから南のほうまでだんだん南に行くほど大きくなります。もし、体がちいさくて南に行く途中でもう一世代できる温量の条件があれば一年2世代する道も生じますが、この場合、逆ベルクマン則に沿って南に行くにしたがって大きくなるトレンドは一回小さくなって、それからまた新たに南に大きくなるトレンドが始まりますから鋸歯の形になる(マサキの法則と名付けられ)ものになります。

 

    温度と動物のサイズの関係はウサギの耳の長さでも知られています(アレンの法則)。予想がつきますよね。ウサギの耳は北に行くほど短い(大雪山のナキウサギなどを思い出してください)。ウサギの耳はしもやけになるのです。コオロギのほうでサイズとは関係がありませんが、鳴き声が気温の変化に感受性です。温度に比例して翅をこするスピードが上がるので高い音になる。これはドルベアの法則といって、エンマコオロギでもそうですが特にリーリーリーリーと繰り返すツヅレサセコオロギの場合に顕著ですが(このコオロギが一番秋の終わりまで生存していますから)、温度が下がっていくととても哀切極まる鳴き声になっていきます。

 

    柿本人麻呂の有名な句がありますね。キリギリス鳴くや霜夜の寒しろにころもかたしき独りかもねむ。このキリギリスはあきらかに間違いでこれはツヅレサセだと思われます。キリギリスは夏の虫で秋にはもういませんから。このように虫の鳴き声からもいろいろなことが連想できます。子供たちと夕餉のおはなしをするときに、ちょっとスパイスをきかせてあげると子供たちは好奇心の触角を伸ばしてきて会話が進むのではないでしょうか?お子さんとの会話というのは一番大切なことです。夜道を歩くときは星座の話もどうぞ。